パン生地君が逃げ出した


まな板の上に投げ付けられて
伸ばされて強く押し込められて
少しずつ柔らかくなっていく
やがて立派なパンになっていくことから逃げ出したんだ


一度焼かれてしまうと元には帰らない
彼には彼の夢がある
ある漠然とした夢がある
焼かれてしまえば後には何も残らないと知り
パン生地君は逃げ出すことにしたんだ


彼の夢は
大きくて優しくて理想的だ
けれど非現実的だ
噂に聞いた姫さまを笑わせに行くんだ
たとえ非現実的であっても
歩き出した彼を責めることはできない
非現実も一歩ずつ現実に近づくだろうし
展望の無い夢ならばいつか現実に還るだろう


海の見える丘に立って
何も飾らない朝の食卓を目指してる