「遅れて、ごめん。」
典子が30分も遅れてやってくる。
「んー…いいよ。でも、何してたの?」
怒りたいけど、怒れない。


ある大事な決意を
今日こそ典子にぶつけよう、
と考えていたムサ男には、
少し無愛想に答えるのがやっとだった。


「ちょっと家の用事があって…。」
典子は答えた。


ちぇっ何だよ。
そんな大切な事があったのだろうか…
ムサ男は、苛立った。


昨夜はなかなか寝付けずに希望を探していた。
ようやくの浅い眠りもすぐに覚めてしまって、
日の出と共にうっすら白く浮かぶ街を眺め、
今日のことをずーっと考えていたのだった。


「へー。家の用事って何があったの?そんな大切なことだったの?」


確かにその瞬間は、
甘過ぎる世界に苦虫を放つ罪の意識でさえも、
勇気だと感じていた。